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東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)69号 判決 1965年10月30日

原告 財団法人電力中央研究所

被告(昭和三七年(行)第一〇一号を除くその余の事件) 狛江町長

被告(昭和三七年(行)第一〇一号事件) 東京都北多摩南部事務所長

主文

一(一)  被告狛江町長が原告に対し昭和三五年四月一〇日付でした昭和三五年度分固定資産税賦課処分、昭和三六年四月一〇日付でした昭和三六年度分固定資産税および都市計画税賦課処分、昭和三七年四月一〇日付でした昭和三七年度分固定資産税および都市計画税賦課処分、昭和三八年四月一〇日付でした昭和三八年度分固定資産税および都市計画税賦課処分、昭和三九年五月一五日付でした昭和三九年度分固定資産税および都市計画税賦課処分はいずれもこれを取り消す。

(二)  被告狛江町長が原告に対し昭和三八年四月三〇日付でした別紙第一目録記載の不動産に対する差押処分の取消しを求める原告の請求を棄却する。

二  東京都北多摩地方事務所長が原告に対し別紙第二目録記載の不動産につき昭和三七年四月一三日付でした不動産取得税賦課処分を取り消す。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の六分の一を原告の負担、同六分の四を被告狛江町長の負担、同六分の一を被告東京都北多摩南部事務所長の負担、被告狛江町長に生じた費用の五分の一を原告の負担、同五分の四を被告狛江町長の負担、被告東京都北多摩南部事務所長に生じた費用は同被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立て

一  原告の申立て

(被告狛江町長に対し)

主文一の(一)同旨および被告狛江町長が原告に対し昭和三八年四月三〇日付でした別紙第一目録記載の不動産に対する差押処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を

(被告東京都北多摩南部事務所長に対し)

主文二同旨および訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める。

二  被告狛江町長の申立て

A  本案前の申立て

原告の申立て中、被告狛江町長が原告に対し昭和三六年四月一〇日付でした昭和三六年度分都市計画税賦課処分の取消しを求める部分を却下するとの判決を求める。

B  本案についての申立て

原告の被告狛江町長に対する各請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。

三  被告東京都北多摩南部事務所長の申立て

原告の被告東京都北多摩南部事務所長に対する請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求める。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

(一)  原告は、民法第三四条の規定に基づき、昭和二六年一一月七日公益事業委員会の許可を得て設立された公益法人である。

(二)  ところで、被告狛江町長は原告に対し、

(1) (イ) 昭和三五年四月一〇日付で昭和三五年度分固定資産税として、一二、二六五、五五〇円を賦課する旨の処分(同年四月二一日原告に令書到達)を、(ロ) 昭和三六年四月一〇日付で昭和三六年度分固定資産税として、一二、〇七九、〇九〇円、同年度分都市計画税として、九五七、七五〇円を賦課する旨の処分(同年四月二〇日原告に令書到達)を、(ハ) 昭和三七年四月一〇日付で昭和三七年度分固定資産税として、一一、〇六八、八〇〇円、同年度分都市計画税として、九五七、七五〇円を賦課する旨の処分(同年四月一二日原告に令書到達)を、(ニ) 昭和三八年四月一〇日付で昭和三八年度分固定資産税として、一一、五一三、一五〇円、同年度分都市計画税として九五七、七五〇円を賦課する旨の処分(同年四月一五日原告に令書到達)を、(ホ) 昭和三九年五月一五日付で昭和三九年度分固定資産税として、一一、六〇二、一〇〇円、同年度分都市計画税として、九六七、八〇〇円を賦課する旨の処分(同年五月一九日原告に令書到達)をし、

(2) 昭和三八年四月三〇日、原告には昭和三三年度以降昭和三六年度までの固定資産税ならびに都市計画税について別表記載の延滞金および延滞加算金計九、四九四、〇八〇円の滞納があるとし、これに昭和三六年一一月に過年度分として決定した昭和三一年度および昭和三二年度法人町民税計二、四〇〇円ならびにその督促手数料各二〇円計四〇円を加えた計九、四九六、五二〇円について、滞納処分として原告所有の別紙第一目録記載の不動産に対し差押処分をした。

(三)  また、東京都北多摩地方事務所長(その権限に係る事務は、改正東京都地方事務所設置条例〔昭和三九年七月三一日公布同年八月一日施行〕により東京都北多摩西部事務所長、同南部事務所長および同北部事務所長に分割して掌理されることとなり、本件訴訟に係る事務に関する権限は、東京都北多摩南部事務所長により承継された。)は、原告に対し、昭和三七年四月一三日付で、別紙第二目録記載の各不動産につき、同目録記載のように課税標準計三二三、六八七、六〇〇円、税額計九、七一〇、六〇〇円の不動産取得税賦課処分(昭和三七年四月一七日原告に令書到達)した。

(四)  しかしながら、被告狛江町長および東京都北多摩地方事務所長のした右各処分は、次の理由により違法である。

(1) 被告狛江町長のした処分の違法事由

(I) 固定資産税および都市計画税賦課処分の違法事由・・・・・地方税法第三四八条第二項(第一二号)によれば民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするものがその目的のため直接その研究の用に供する固定資産に対しては固定資産税を課することができず、また同法第七〇二条の二によれば同法第三四八条第二項により固定資産税を課することができない土地または家屋に対しては都市計画税をも課することができないことになつており、原告は右各法条にいう民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするものであるから、原告が学術研究の目的のため直接その研究の用に供する固定資産に対しては固定資産税または都市計画税を課すべきでないのにかかわらず、被告狛江町長は、原告が東京都北多摩郡狛江町岩戸の原告技術研究所に前記目的のために所有している固定資産に対し、前記のような固定資産税および都市計画税を賦課してきたものであつて右各賦課処分は右各規定に違反している。

(II) 差押処分の違法事由・・・・・(イ) 右のとおり、原告の右固定資産に対しては固定資産税、都市計画税を課することができず、また地方税法第二九六条第一項によれば、原告のような民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするものに対しては市町村民税を課することができないのであるから、固定資産税、都市計画税の延滞金、延滞加算金および法人町民税ならびにその督促手数料を徴収することができないことも当然である。したがつてその徴収のための前記差押処分は違法である。

(ロ) かりに右のようにいえないとしても、昭和三三年中、原告と被告狛江町長の間において、原告よりの固定資産税等の徴収の問題が双方の交渉により円満に解決されるまではこれを徴収しない旨の合意が成立し、そのまま数年を経過したが、このことは、交渉により問題が解決するまでの間、被告狛江町長において原告よりの固定資産税等の徴収を猶予したものにほかならず、原告が遅滞の責めを負うべきものでないことは明らかであるから、被告狛江町長の差押処分は違法である。

(ハ) かりにそうでないとしても、被告狛江町長は、原告に対する固定資産税等賦課の可否について疑義があつたため、原告と交渉し、また原告と合意のうえ昭和三五年五月六日東京都知事にあつせんを依頼したりした。そして、かくするうちに問題の解決が遷延したのであるが、このように課税について行政庁自体において疑義が存する以上、その疑義が行政庁内部において解明されるまでは納税者が納税について疑義をもつのは当然であつて、納税者が納税をしないからといつて延滞の責めを負うべき理由は全くない。ところで、被告狛江町長が原告に生じたとする延滞金および延滞加算金の大部分は被告狛江町長自身課税に疑義をもっていた当時のものである。したがつて、被告がこの分まで差押えをしたのは違法である。

(ニ) また、原告は、昭和三五年度分固定資産税ならびに昭和三六年度分固定資産税および都市計画税各賦課処分に対する異議の申立てが棄却された後は訴訟により右賦課処分の取消しを求めつつも法人町民税を除き固定資産税および都市計画税は一応これを完納しているのであるから、いまだ第一審判決もみるに至らない現在、右延滞金および延滞加算金についてした差押処分は信義に反し著しく妥当を欠く違法な処分である。

(2) 東京都北多摩地方事務所長のした処分の違法事由・・・・・地方税法第七三条の四第一項によれば、民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするものがその目的のため直接その研究の用に供する不動産の取得に対しては不動産取得税を課することができないとされているから、東京都北多摩地方事務所長の前記不動産取得税賦課処分は右規定に違反している。

(五)  そこで原告は、右各処分について次のような不服申立て手続を経たが、いずれも申立てを棄却された。すなわち、

(1) 被告狛江町長の処分関係

(I)(イ) 昭和三五年度分固定資産税賦課処分に対しては同年五月一九日、同日付異議申立書をもって、(ロ) 昭和三六年度分固定資産税および都市計画税賦課処分に対しては同年五月一八日、同日付異議申立書をもつて、それぞれ異議を申し立てたところ、被告狛江町長は昭和三六年六月一六日付で昭和三五年度分固定資産税に対する異議申立てならびに昭和三六年度分固定資産税および都市計画税に対する異議申立てをいずれも棄却する旨決定し、同日原告は右決定の通知をうけた。そこで、原告は昭和三六年七月一五日、同日付訴願書をもつて、東京都知事に対し、訴願を申し立てた(訴願書中訴願の趣旨に都市計画税を表示しなかつたが、これについても訴願を申し立てたものであることは訴願の全趣旨から明らかである。)が、東京都知事は本訴提起後である昭和三六年一一月一〇日右訴願を棄却する旨裁決し、原告は同月一三日右裁決の通知をうけた。(ハ) 昭和三七年度分固定資産税および都市計画税賦課処分に対し同年五月一〇日異議申立てをしたが、被告狛江町長は同年六月四日付で右異議申立てを棄却する旨の決定をし、右決定は同月五日原告に通知された。そこで、原告は、昭和三七年七月五日、東京都知事に対し訴願を申し立てたが、東京都知事は同年九月一九日右訴願を棄却する旨裁決し、原告は同月二五日右裁決の通知をうけた。(ニ) 昭和三八年度分固定資産税および都市計画税賦課処分に対し同年四月二六日異議申立てをしたが、被告狛江町長は同年六月一〇日付で、右異議申立てを棄却する旨の決定をし、右決定は同月一一日原告に通知された。(ホ) 昭和三九年度分固定資産税および都市計画税賦課処分に対しては同年六月一五日異議申立てをしたが、被告狛江町長は同年七月一四日付で右異議申立てを棄却する旨の決定をし、右決定は同日原告に通知された。

(II) また、前記差押処分に対し原告は昭和三八年五月一〇日付異議申立書により異議の申立てをしたが、被告狛江町長は同年七月二六日付決定書により右異議申立てを棄却し、同月二九日これを原告に通知した。

(2) 東京都北多摩地方事務所長の処分関係

前記不動産取得税賦課処分に対し昭和三七年五月一四日東京都知事に異議の申立てをしたが、東京都知事は同年八月二九日右異議の申立てを棄却する旨の決定をし、右決定は同年九月四日原告に通知された。

(六)  よつて、被告狛江町長のした前記各固定資産税、都市計画税の賦課処分および差押処分ならびに東京都北多摩地方事務所長のした前記不動産取得税賦課処分の取消しを求める。

二  被告らの答弁

A  被告狛江町長の答弁

a 本案前

(一) 請求の原因(一)(二)は認める。また、同(五)の(1)は、昭和三六年度分都市計画税についても東京都知事に訴願をしたとの点を除き認める。

(二) 原告は、昭和三六年度分固定資産税および都市計画税賦課処分に対する異議申立てを棄却する決定に対し、「狛江町長がなした訴願人の昭和三六年度分固定資産税に対する異議申立てを棄却する旨の昭和三六年六月一六日付決定は、これを取り消す」とことさら取消しを求める範囲を固定資産税に限定して訴願をしたもので、結局右都市計画税賦課処分に対する異議申立てを棄却する決定に対しては訴願をしなかったのである。したがつて、本訴中、昭和三六年度分都市計画税賦課処分の取消しを求める部分は行政事件訴訟特例法第二条本文の規定に違反した不適法なものである。

b 本案について

(一) 請求の原因(四)の(1)は争う。すなわち、

(1) 請求の原因(四)の(1)の(I)のうち、地方税法第三四八条第二項、第七〇二条の二がそれぞれ原告主張のようなことを規定していることは認めるが、その余は争う。

(2)(イ) 請求の原因(四)の(1)の(II)のうち、地方税法第二九六条第一項が原告主張のようなことを規定していること、原告は昭和三五年度分固定資産税ならびに昭和三六年度分固定資産税および都市計画税各賦課処分に対する異議の申立てが棄却された後は訴訟により右賦課処分の取消しを求めつつも法人町民税を除き固定資産税および都市計画税を完納していることは認めるが、その余は争う。原告と被告狛江町長の間において原告よりの固定資産税等の徴収の問題が双方の交渉により円満に解決するまではこれを徴収しない旨の合意が成立したというような事実はない。また、被告狛江町長は原告と合意のうえ昭和三五年五月六日東京都知事にあつせんを依頼したのではなく、被告狛江町長が独自の立場で昭和三五年四月二八日都知事にあつせんを依頼したのである。

(ロ) かりに原告が学術研究を目的とする法人にあたるとしてもそのことは明白でないから原告に対する固定資産税、都市計画税、法人町民税の各賦課処分は無効とはいえないし、また昭和三三年度分、同三四年度分固定資産税ならびに法人町民税の各賦課処分について、原告は所定の手続による不服申立てをしていないから、すでに右賦課処分の違法を主張しえないことはもとより、右賦課処分の効力として納期徒過の事実により当然発生する延滞金および延滞加算金の支払義務についても、その本税の賦課処分の違法を理由としては争えない。

(二) 請求の原因(六)は争う。

B  被告東京都北多摩南部事務所長の答弁

(一) 請求の原因(一)(三)および(五)の(2)は認める。

(二) 請求の原因(四)の(2)は、地方税法第七三条の四第一項が原告主張のようなことを規定しているとの点を除き争う。

(三) 請求の原因(六)は争う。

三  被告らの主張

A  被告狛江町長の主張

(一) 固定資産税および都市計画税賦課処分の適法性

原告は、東京都北多摩郡狛江町岩戸に技術研究所を有しているところ、原告は左記の理由により地方税法第三四八条第二項第一二号にいう「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするもの」にあたらないから、本件固定資産税および都市計画税各賦課処分をしたのである。すなわち、

(1) 地方税法第三四八条第二項第一二号に規定する「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするもの」とは、その立法の理由および経過に鑑み、学問上の普遍的原理、通則の発見、創造等基礎的研究をなすことを直接目的として設立され、かつその趣旨に則つて活動している法人のみを指称するものと解される。

(2) ところが、原告は右に述べたような法人ではない。

(I) まず原告法人の寄附行為第二条によれば、「本財団は、電気事業の運営に必要な電力技術および経済に関する研究、調査、試験及びその綜合調整を行い、もつて技術水準の向上を計り電気事業一般業務の能率化に寄与することを目的とする」と記載されている。右によつて明らかなように、原告法人において行なわれる研究は、電気事業の運営に必要な電力技術、経済に関するものに限られるから、営利会社の経営者がその事業のために商品制作技術、販売技術等を研究するに等しく、とうてい学術の研究ということができないのである。また、原告法人における研究は、電気事業一般業務の能率化に寄与するための手段に過ぎないから、電気事業と切り離して原告法人の存立目的が存するとはいいえない。

(II) 原告法人の設立許可は、文部省でなされたものではなく、学術に関する公益法人について設立許可の権限を有しない公益事業委員会においてなされたものである。しかし、民法第三四条の規定をうけた文部省設置法第五条第一七号の規定によれば、およそ「学術に関する法人」であるならば、その設立時の主務官庁が文部省でなければならない。そして、「学術の研究を目的とする法人」はつねに「学術に関する法人」に内包される概念であるから、「学術に関する法人」にさえ該当しない原告法人が「学術の研究を目的とする法人」に該当しないことは明らかである。

(III) しかも、原告法人の実態をみても、営利会社である九電力会社すなわち北海道電力株式会社、東北電力株式会社、東京電力株式会社、中部電力株式会社、北陸電力株式会社、関西電力株式会社、中国電力株式会社、四国電力株式会社および九州電力株式会社の電気事業の運営に必要な電力技術および経済に関する共同研究機関であつて学問上の普遍的原理、通則の発見、創造等基礎的研究をすること自体を目的とするものではなく、むしろ九電力会社の要請に応じ、会社運営の利益に奉仕することに主眼が存する九電力会社の附置機関たる共同研究所である。

(イ) 原告法人の設立趣意書には「電気事業の運営に当り技術の日進月歩に即応して日常業務の推進、能率向上に必要な試験研究はもちろん、将来の電源開発建設に伴う特殊の試験を実施するため、電力技術に関する研究機関の設置を必要とすることは、改めて述べるまでもない。旧日発においては上述の要請に応じるため、電力技術の綜合研究機関として電力技術研究所を設置し、じ来相当の成果を収めてきたのであるが、今回電気事業再編成に伴い新たに九電力会社の創設された今日でも各電力会社において電力技術に関する試験研究の要請あるべきは当然のことと考えられる。しかし、これがため各社が各個に相当規模の研究機関を設置せんとしても莫大な費用の重複投資となつて、経済的に不利なばかりでなく、又研究に必要な熟練の研究者を集めることは困難で、到底その実現は不可能である。むしろ、その対策として各社共同の研究機関を設置し、九電力会社の要請に応ぜしめるのが至当と考えられる。」との記載がある。

この設立趣意書の記載こそは、原告法人が九電力会社の要請に応ずる目的で九電力会社共同の研究機関として設立されたことを示している。

(ロ) 原告法人の管理は、三〇名以内の理事によつてなされるのであるが、その理事選任権は九電力会社に属している。すなわち、寄附行為第六条は「1、理事は、次に掲げる九電力株式会社(以下九会社と称する。)からそれぞれ一名ずつ選任する。北海道電力株式会社、東北電力株式会社、東京電力株式会社、中部電力株式会社、北陸電力株式会社、関西電力株式会社、中国電力株式会社、四国電力株式会社、九州電力株式会社 2、前項のほか九会社は協定により、電源開発株式会社ならびに社内又は社外の学識経験者より二一名以内の理事を選任することができる。」と規定し、九電力会社は右理事の選任権を通じて原告法人を実質的に運営している。そして、原告法人設立以降の原告法人の理事中九電力会社の取締役または社員であるものは、別紙一覧表のとおりであり、きわめて多数を占めている。のみならず、寄附行為第三一条は、「本財団が解散した場合には、その資産は第六条第一項の規定により選任された全理事の承認を経、且つ主務官庁の許可をえてこれを処分する。」と規定し、九電力会社からそれぞれ一名ずつ選任された理事は、九電力会社の利益代表として、他の理事よりも強い権限を有している。また、寄附行為第七条は「監事は、九会社の協定により選任する。」と規定しているので、九電力会社は、原告法人の監事の選任権を通じても、原告法人を支配しうることを担保しているのである。

(ハ) 原告法人は、九電力会社の共同研究機関としての業務を遂行している。

(1) まず、原告法人の研究は、前記寄附行為第二条が示すように、電力事業の運営に必要なものに限られている。

(2) そして、原告法人の業務である研究は、研究題目の決定において九電力会社の利益を第一義としている。原告法人の取扱研究題目中過半数が九電力会社の依頼事項であり、これについての研究成果は「秘扱い」としている。九電力会社と電源開発株式会社との事業がわが国の電気事業の九〇パーセント以上を占めている現状からすれば、原告法人の研究成果は、九電力会社の依頼事項はもとより、その余のものについても九電力会社の利益に帰し、九電力会社および電源開発株式会社を除き、その利益を受けるべきものは皆無に等しい。

(ニ) 原告法人の寄附行為第二四条は「九会社は本財団の設立に際し、附属協定書に基づき、合計金七七、三四六、〇〇〇円を本財団に寄附する。」、同第二五条は「1、九会社は本財団を維持するため、附属協定書に基づき、経常費および設備費を本財団に給付する。2、電源開発株式会社は九会社及び本財団と協定して、前項に準じて経常費を本財団に給付する。」、同第二七条は「1、九会社が個別又は共同で依頼する研究については、本財団は別に費用又は報酬を受けることなく、その依頼に応じるものとする。2、電源開発株式会社の依頼する研究については、前項に準ずるものとする。3、前二項の研究が第二五条に掲げる継続給付金をもつて支弁し得ない多額の費用を要するときは、両者協議の上その費用の分担を決定する。」とそれぞれ規定しており、原告法人は九会社の寄附財産のみにより設立され、九会社および電源開発株式会社の給付金によつて運営されていること、また右給付金は九電力会社および電源開発株式会社の依頼に基づく研究の対価たる性質を有することは明らかである。そして、原告法人の運営費の負担者である九電力会社は原告法人に対する右給付金を経理上自社の試験研究費として取り扱つているが、このことは原告法人が九電力会社の共同研究所としての機能を果していることの実態に基づくものである。

これらの事実と原告法人解散の際は、理事三〇名中の九会社よりそれぞれ一名ずつ選任された九名の理事の承認を得なければ資産を処分できないとされている(前記寄附行為三一条参照。)事実をあわせると、九電力会社が原告法人に対する出損を通じてこれを支配していることは明らかである。

(ホ) 原告法人の所員中過半数のものが九電力会社の社員としての身分を有する出向者である(そして、出向者の退職金については所属会社と原告法人との在職年数を通算する。)。

以上の事実は、原告が実質上九電力会社の共同研究所であることを示している。

(二) 差押処分の適法性

被告は、原告に対し昭和三三年五月三日付で同年度固定資産税として七、一九七、三二〇円を賦課する旨の処分を、昭和三四年四月一〇日付で同年度固定資産税として七、二九八、七〇〇円を賦課する旨の処分を、昭和三五年四月一〇日付で同年度固定資産税として一二、二六五、五五〇円を賦課する旨の処分を、昭和三六年四月一〇日付で同年度固定資産税として一二、〇七九、〇九〇円、都市計画税として九五七、七五〇円を賦課する旨の処分を、昭和三六年一一月二〇日付で昭和三一年度ならびに昭和三二年度法人町民税として各一、二〇〇円を賦課する旨の処分をした。ところが、原告は、納期限におくれ固定資産税と都市計画税を完納したが、別表記載の延滞金および延滞加算金計九、四九四、〇八〇円と前記法人町民税計二、四〇〇円およびその督促手数料各二〇円計四〇円を加えた九、四九六、五二〇円を支払わないので、これを徴収するための滞納処分として本件差押処分をしたものであり、何ら違法な点はない。

B  被告東京都北多摩南部事務所長の主張

不動産取得税賦課処分の適法性 (イ) 原告は、昭和三三年一一月二六日付で別紙第二目録記載の土地延べ三三四・八三坪を売買により取得するとともに、同目録記載のとおり、昭和三二年一〇月一五日から昭和三四年一〇月一七日にかけて同目録記載の建物延べ三五四四・〇一坪を新築および増築により取得したので、右土地および建物の取得に対して地方税法第七三条の二の規定により本件不動産取得税を課したものである。

(ロ) そして、原告が「学術の研究を目的とする」法人にあたらないことは、被告狛江町長の前記主張のとおりである。

(ハ) したがつて、本件不動産取得税賦課処分には何ら違法な点はない。

四  被告らの右主張に対する原告の答弁と主張

A  被告狛江町長の主張に対し

(一) 固定資産税および都市計画税賦課処分についての主張=三のA(一)について

a 冒頭の主張中、原告が東京都北多摩郡狛江町岩戸に技術研究所を有していることは認めるが、その余は争う。原告が「学術の研究を目的とする法人」にあたることは後記bにおいて詳しく述べるとおりである。

(1) の主張は争う。地方税法第三四八条第二項第一二号の立法理由ならびに経過からみて「学術の研究を目的とする法人」を被告の主張するように限定的に解すべき理由はない。学術の研究とは抽象的には人文科学および自然科学の基礎的研究ならびにそれらの応用の研究を指し(文部省設置法第二条第八号参照。)、具体的には、日本学術会議法第一〇条に規定する学問を基準としてその基礎的研究ならびにその応用の研究を指すものと解すべきである。したがつて、地方税法第三四八条第二項第一二号に規定する「学術の研究を目的とする法人」とは、当該法人の目的ならびに組織および運営の実体からみて、当該法人が右のような意味での学術の研究を目的とするものであれば足りると解すべきである。

(2) の主張について

原告を「学術の研究を目的とする法人」にあたらないとする被告の主張はとうていこれを肯認することができない。

(I) の主張中、原告の寄附行為第二条には被告主張のような記載が存することは認めるが、その余は争う。寄附行為第二条は、「学術の研究」のうち、原告のとりあげるべき研究の範囲を明確にするために「電力技術及び経済に関する研究、調査、試験」と摘記しているのである。そして、寄附行為第三条は「本財団は、その目的を達成するため次の事業を行う。一、発送配電に関する電力、土木、火力及び電力応用の試験研究ならびに調査、二、電力技術に関する規格及び仕様書に関する事項、三、電力経済に関する研究調査、四、電力に関する図書、資料の蒐集及び使用善導、五、電力に関する統計の蒐集及び使用善導、六、諸計算機(交流計算盤を含む。)の整備及び使用善導、七、電力技術経済研究の総合調整、八、電力技術及び経済に関する出版物の刊行、九、特に指定された事項に関する委託研究、一〇、その他本財団の目的達成に必要な事項」と規定している。これら寄附行為第二条および第三条の規定からも明らかなように、原告の目的は、特定の電力会社の事業目的に仕えることにあるのではなく、広く電気事業の運営に必要な電力技術および経済に関する研究、調査等すなわち「学術の研究」を行ない、一般的に、技術水準の向上を計り、電気事業一般業務の能率化に寄与することにあるのである。

(II) の主張中、原告法人の設立許可は文部省によりなされたのではなく、公益事業委員会においてなされたという点は認めるが、その余は争う。地方税法第三四八条第二項第一二号は昭和二六年に制定された「民間学術研究機関の助成に関する法律」(昭和二六年法律第二二七号―以下助成法という。)の附則第二項により追加されたものであるから、地方税法の右規定の解釈に当つては、助成法の趣旨、目的に照らして右規定のもつ意義を合理的に解釈すべきものであるところ、助成法は各省共同所管の法律として制定されていることおよび助成法の附属法規である「民間学術研究機関の助成に関する法律施行規則」(昭和二六年文部省令第二〇号)も助成法の対象となる民間学術機関のうちには文部大臣の監督に属するもののほか、他の各省大臣の監督に属するものがあることを当然の前提としていることからみて、文部省所管の法人であるか否かは地方税法第三四八条第二項第一二号の適用の有無を決するについて判断の基準とはならない。したがつて、用語の上からはもちろん、立法趣旨からみても、「学術の研究を目的とする法人」は「学術に関する法人」に内包される概念であるとか、文部省の所管に属する法人でなければ「学術の研究を目的とする法人」とはいえないなどとはとうていいえないのである。

(III) の主張について

冒頭の主張は争う。原告は、その目的からいつて九電力会社の要求に応じて研究調査等をなすことを本来の建前としていないから、九電力会社共同の研究機関といいえないことは明らかであり、ことに過去の実績に照らして考えれば、そのことは一層明らかである。

(イ) の主張中、原告の設立趣意書に被告主張のような記載があることは認めるが、その余は争う。右設立趣意書の文言だけについてみると、各社共同の研究機関を設置して九電力会社の要請に応ぜしめることを目的としたもののように受けとられ易い表現があるにしても、それは、原告のような研究所を設立するに当つては多額の経費を必要とするので、その経費の財源を確保するため普通用いられる表現であつて、その運営の実際を度外視し従らに文書の片言隻句だけを把えて原告が学術の研究を目的とする研究所でないとするのは当らない。原告の設置が九電力会社の実際の要請にも応じ得るものであることはその性質上当然であるが、そのことは、原告の設立の目的が一般的に学術の研究調査等にあることと矛盾するものではなく、ただそういう研究調査の結果が九電力会社の要請にも応ずるものであるに過ぎない。

(ロ) の主張中、寄附行為第六条、第七条、第三一条の内容がそれぞれ被告主張のとおりであること、原告法人設立以降の理事が別紙一覧表記載のとおりであることは認めるが、これらのことがあるからといつて直ちに原告を九電力会社の利益にのみ奉仕する共同研究機関であるとみることは誤りである。

(ハ) の主張について

冒頭の主張は争う。

(1)の主張は認める。しかし、このように研究分野が限られているとしても、研究は決して特定の電力会社の事業目的に仕えることを目的としているのではなく、研究を通して一般的に技術水準の向上を計り、電気事業一般業務の能率化に寄与することを目的としているのである。

(2)の主張のうち、原告法人の研究内容は項目的にみて過半数が九電力会社の依頼によるものであること、九電力会社および電源開発株式会社のわが国の電気事業全体で占める地位が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。研究項目の過半数が九電力会社の依頼によるものであるとはいつても、原告が「学術の研究」を行なうについて課題を九電力会社より提供して貰つているものがあるというに過ぎないのであつて、これを研究課題としてとり上げるか否かは全く原告の自主的決定に委ねられているから、依頼項目が多いからといつて原告を九電力会社の利益にのみ奉仕する九電力会社の共同研究機関と解することは誤りである。のみならず、研究はその内容によつてこれに要する人員、施設、時間、経費等を著しく異にするのであつて、単に項目的数字によつて量定できるものではなく、その成果によつて評価されるべきことはいうまでもない。また、依頼研究の結果をすべて外部に秘密にしているのではなく、一般性があるかまたはその方面の学界に貢献するものと認められるものについては、研究によつて解明された理論形式を学会の機関誌、研究発表会または原告の研究所報、研究報告書等を通じ広く一般に公表しているのである。

原告の「電気事業の運営に必要な研究」の結果は、九電力会社および電源開発株式会社の利益にのみ寄与しているということはできない。原告の研究の学問的価値はきわめて高く評価されており、これが応用範囲も電気事業のみならず、土木事業、農業、水産業等広く関連産業に及び、各方面に幾多の貢献をしているのである。

(ニ) の主張について

原告の寄附行為第二四条、同第二五条、同第二七条、同第三一条の内容が被告主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。原告が九電力会社の寄附金を基礎として設立され、かつ維持されており(第二四条、第二五条)、九電力会社の研究依頼についての取扱いに関する規定が設けられている(第二七条)等の事実があるからといつて、直ちに原告が九電力会社の共同研究所とはいいえない。

(ホ) の主張は争う。原告の所員のうち九電力会社よりの出向者は、昭和三四年三月末当時においては総人員四一〇名中一〇一名、昭和三六年八月末当時においては総人員四六四名中九六名、昭和三九年六月末当時においては総人員六一二名中九四名に過ぎない。また、退職金を通算しているというが、雇傭主体が変つた場合の労働条件の決め方としてかかる計算方法をとつているに過ぎないのであつて、原告は出向以前の分まで本人の退職金を負担しているのではない。

b 原告が「学術研究を目的とする法人」であることは、次に述べるとおり明らかである。

原告は、寄附行為第二条に定める目的を達成するため、東京都北多摩郡狛江町に技術研究所、千葉県東葛飾郡我孫子町に農電研究所、東京都千代田区に電気事業研究委員会および産業計画会議を設け、技術研究所においては別表一、農電研究所においては別表二、電気事業研究委員会においては別表三、産業計画会議においては別表四、に記載したような研究に従事している。そして、別表五、に記載したように電気学会、土木学会等五〇余の学会または研究会に加入し、研究に当つては必要に応じこれら専門の学会または研究会とも十分な連繋を保つほか、各大学、官公立研究機関の研究者とも密接な連繋を保ち、互いに知議の交換その他の協力を行なつており、また、広く諸外国の研究機関とも知識の交換をはかるため研究員の海外派遣の制度を設け、必要に応じ研究員を諸外国に派遣することにしているのである。

一方、各大学よりは卒業論文実習生、一般実習生の指導依頼を受け、創設以来、別表六記載のように多数学生の指導を行なつているほか、別表七記載のように政府のコロンボ計画および中南米援助計画に基づく海外からの留学生の学術的教育訓練をも行なつている。しかも、原告は、これらの研究によつて得られた研究成果について、学会の機関誌上あるいは研究発表会等でこれを公表するとともに、別表八記載のように研究所所報および研究報告書を通じ一般に公表しているのであつて、その送付先は国内はもちろん、諸外国の大学その他の各種研究機関にも及んでいる。また、研究により生じた発明考案についても、広く一般の需めに応じてその実施を許諾しているのであつて、これらの研究成果は広く諸企業、公営事業ならびに大学、工業高校、官公立研究機関等その他一般社会にも公平に寄与するよう指向されているのである。原告が学会その他に発表した論文中には電気学会、土木学会、日本機械学会等より特に学術的価値大なるものとして受賞しているものがある。また、別紙九記載のように、原告のきわめて多数の研究者がそれぞれの専門の分野で学位を授与されており、今後も引き続き相当数の研究者が学位を授与される見込みであるが、学位は純粋な学術に寄与したものに与えられるのであるから、このように多数の学位取得者が輩出しまたは輩出しようとしているのは、一に原告の研究の性格が学術的であることを雄弁に物語つているのである。さらに、原告は、研究上の重要テーマについては各種委員会を設け、別表一〇記載のように、部外よりも多数の学識経験者の参画を得ているが、その人的構成からしても原告が学術研究機関にあたることは明白である。なお、原告は、日本育英会法施行令第一九条第四項第二号に定める学術研究機関の指定、特許法第三〇条第一項の学術団体の指定、原告の技術研究所の施設につき関税定率法施行令第一七条第四号に定める特定用途免税の指定を受けており、統計法に基づく指定統計調査に当つては科学技術研究調査規則第三条第二号の科学技術に関する試験研究または調査研究を業務とする研究機関として毎年統計調査の対象ともされているが、これらのことは原告が学術研究機関としての実体を具備していることを示すものである。

(二) 差押処分についての主張=三のA(二)について

(1) 被告が原告に対し被告の主張のような固定資産税、都市計画税、法人町民税の賦課処分をしたこと、督促があつたこと、原告が納期におくれ固定資産税および都市計画税を完納したこと、これらの賦課処分が適法でしかも原告が遅滞の責めを負わなければならないとすれば、原告は被告主張のような債務を負うていることは認める。

(2) しかしながら、請求の原因(四)の(1)(II)において主張した事由により、本件差押処分は違法である。なお、原告は、昭和三五年度分固定資産税賦課処分ならびに昭和三六年度固定資産税、都市計画税賦課処分について前記のように前審手続を経由したほか、昭和三三年度分固定資産税については同年五月九日付、昭和三四年度固定資産税については同年四月二二日付の各書面でそれぞれ非課税申告中であるから納付できない旨を被告に通知しているが、改正前の地方税法第三七〇条第一項本文に定める異議の申立ては不要式の私人の公法行為であるから、右書面による納税できない旨の通知は固定資産税賦課処分に対する異議の申立てと解すべきである。しかるに、被告は、これに対し、今日に至るまで何らの決定をしていない。

B  被告東京都北多摩南部事務所長の主張に対し

(イ) の主張は認めるが、その余の主張は争う。原告が「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするもの」にあたることは、すでに述べたとおりである。そして、原告は、前記学術研究の目的のため、東京都北多摩郡狛江町大字岩戸所在の技術研究所において、ダム、水路、コンクリート、汽機、汽罐、給水処理、燃料、燃焼、電気機器、送配電、高電圧、通信、地質化学、アイソトープ利用等に関する土木、機械、電気、通信、電子、化学、地質、地球物理等の学問の分野における基礎または応用の研究を行なつているのであるが、直接研究の用に供するため、別紙第二目録記載の土地を取得し、同目録記載の建物を新築または増築したのである。

したがつて、原告は不動産取得税を賦課されるいわれはない。

五  原告の右主張(四のA(二)(2))に対する被告狛江町長の答弁二の被告らの答弁Ab(一)(2)記載のとおり原告の主張は理由がない。なお、固定資産税賦課処分に対する異議申立ては訴願法第六条第一項の適用または準用により要式行為であると解されるところ、原告主張の書面は右規定の要求する記載事項を具備しないから、とうてい異議申立てと解することはできない。かりに、異議申立てが不要式行為であるとしても、原告主張の書面は原告の不服申立ての意思表示とは認められないから、これをもつて昭和三三年度分固定資産税、同三四年度固定資産税各賦課処分に対する異議申立てと解することはできない。

第三証拠関係<省略>

理由

第一被告狛江町長に対する請求について

一  固定資産税および都市計画税の賦課処分取消請求

請求の原因(一)、(二)の(1)および(五)の(1)の(I)(但し、原告が昭和三六年度分都市計画税についても東京都知事に訴願をしその裁決を得たとの点を除く。)はいずれも当事者間に争いがない。

A  本案前の問題―昭和三六年度分都市計画税賦課処分について訴願手続を経由しているか。

被告狛江町長の昭和三六年度分固定資産税および都市計画税賦課処分に対する異議申立棄却決定に対し、原告が、昭和三六年七月一五日東京都知事あて提出した訴願書中訴願の趣旨に都市計画税の表示がないことは当事者間に争いがない。しかしながら、訴願法は「訴願書ハ其不服ノ要点理由要求及訴願人ノ身分職業住所年齢ヲ記載シ之ニ署名捺印スヘシ」(同法第六条第一項)と定めているのみで不服申立ての対象となる処分を訴願書中のいかなる箇所に表示すべきかを定めていないから、訴願書全体の記載から不服申立ての対象となる処分が観取しうれば足りるものと解すべきところ、原本の存在と成立に争いのない乙第五号証によれば、原告が東京都知事あて提出した前記訴願書前文には「訴願人が狛江町長に対してなした昭和三六年度分固定資産税及び都市計画税に対する異議申立てに対し、昭和三六年六月一六日狛江町長から異議の決定の通知を受けたが、全部不服であるから訴願します」と明記されていることが認められ、これらの記載から見れば、訴願人たる原告は、ことさら取消しを求める範囲を限定し異議決定中都市計画税の部分のみを除外して訴願を提起したものではなく、昭和三六年度分都市計画税についても訴願を申し立てる趣旨であつたことが観取できる。してみれば、右都市計画税に関しては訴願に対する裁決がなされていないとしても、昭和三六年度分都市計画税賦課処分の取消しを求める本件訴えは右訴願提起の日から三か月を経過した後に提起されているから、本訴はこの点においても適法である。

B  本案の問題―本件固定資産税、都市計画税各賦課処分は「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするものがその目的のため直接その研究の用に供する固定資産」についての賦課処分でないかどうか。

地方税法第三四八条第二項は、左の各号に掲げる固定資産に対しては固定資産税を課することができないと規定し、同項第一二号において「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするものがその目的のため直接その研究の用に供する固定資産」をあげており、また同法第七〇二条の二第二項は、市町村は右第三四八条第二項等により固定資産税を課することができない土地または家屋に対しては、都市計画税を課することができない旨規定している。

(一) そこで、まず原告は、「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするもの」にあたらないかどうかについて検討する。

(1) 原告は民法第三四条の規定に基づき昭和二六年一一月七日公益事業委員会の許可を得て設立された公益法人であること(請求の原因(一))が当事者間に争いのないことは前に述べたとおりである。

(2) それ故、問題は、原告が「学術の研究を目的とするもの」にあたらないかどうかである。

(I)はじめに、「学術の研究を目的とするもの」とはいかなるものを指称するかについて考えてみよう。

地方税法第三四八条第二項第一二号の規定は、民間学術研究機関の助成に関する法律(昭和二六年法律第二二七号、以下助成法という。)附則第二項によつて挿入されたものであるが、助成法は、「民間学術研究機関がわが国の学術および産業の振興上重要な使命を有することにかんがみ、これに対し現下の経済情勢に対処して財政的援助を行ない、学術の研究を容易にすることを目的とする。」(同法第一条)もので、同法で「民間学術研究機関とは、民法第三四条の規定により設立された法人で学術の研究を目的とするものをいう」(同法第二条)のである。そして、この目的達成のため、民間学術研究機関に対し、一方においては積極的助成策として同法の定めるところにより補助金を交付するものとするとともに、他方においては消極的助成策として地方税法を改正して市町村民税および固定資産税を課さないこととしたのである。このことは助成法の法文および原本の存在と成立に争いのない乙第六号証をみれば明らかである。このように、地方税法第三四八条第二項第一二号の規定による非課税扱いは助成法による民間学術研究機関の助成策の一翼をなすものであるから、同規定の適用対象は、助成法の適用対象と同様に解釈すべきものと考えられる。

ところで、助成法は「学術の研究」について特に定義を与えていない。ただ、第一条、第五条第一項第一号の規定等からみれば、同法は「学術又は産業の振興上重要な研究」を行なう研究機関を補助の対象として考えていることがうかがわれるにすぎない。しかし、同法は「学術の研究」を他の法令と特に異なる意味に用いていないと考えられるところ、「学術」については、文部省設置法(昭和二四年法律第一四六号)第二条第八号に「学術とは人文科学及び自然科学並びにそれらの応用の研究をいう。」と定義されており、また「人文科学」及び「自然科学」については、日本学術会議法(昭和二三年法律第一二一号)第一〇条に「日本学術会議に、左の区分により、左の七部を置く。人文科学部門第一部(文学、哲学、教育学、心理学、社会学、史学)第二部(法律学、政治学)、第三部(経済学、商学、経営学)自然科学部門第四部(理学)第五部(工学)第六部(農学)第七部(医学、歯学、薬学)」と規定されていることから考えると、助成法ないし地方税法第三四八条第二項第一二号にいう「学術の研究」とは日本学術会議法第一〇条に定める区分によつて示されるような意味における「人文科学」および「自然科学」の「学理的研究ならびにその応用に関する研究」をいい、しかも「学術又は産業の振興上重要な研究」を意味するものと解するのが相当である。

つぎに、学術の研究を「目的とするもの」とはいかなるものを指すと解すべきかについて考えるのに、「法人ハ法令ノ規定ニ従ヒ定款又ハ寄附行為ニ因リテ定マリタル目的ノ範囲内ニ於テ権利ヲ有シ義務ヲ負フ」(民法第四三条)のであるから、ある法人が「学術の研究を目的とするもの」であるかどうかは、社団法人については定款が財団法人については寄附行為がまず判断の基準となるべきである。

したがつて定款または寄附行為に学術研究と全く無関係な目的を掲げている法人は「学術の研究を目的とするもの」ということができない。しかし、またいかに定款や寄附行為に学術の研究を目的とする旨を掲げていても、その法人の組織、運営および活動の実体からみてとうてい学術研究機関と目しえないようなものも「学術の研究を目的とするもの」と解することはできない。けだし、定款または寄附行為には学術の研究を目的として掲げていてもその組織運営および活動の実体が学術の研究の目的にそわないような法人に対して助成措置を講ずることは法の趣旨にもとると考えられるからである。

それ故、助成法ないし地方税法第三四八条第二項第一二号にいう「学術の研究を目的とする」法人であるといいうるためには、定款または寄附行為の目的条項に前に述べたような意味の学術の研究を行なう趣旨を掲げており、かつ、その組織、運営および活動の実体からみても学術の研究という目的にそうていると認められるものでなければならず、また、これをもつて足りると解すべきである。被告は「学術の研究を目的とするもの」とは、学問上の普遍的原理、通則の発見、創造等基礎的研究をなすことを直接目的として設立され、かつその趣旨に則つて活動している法人のみを指称すると主張するが、このように狭く解すべき根拠に乏しく、右主張は採用できない。

(II)そこで、原告の寄附行為について検討するのに、原告法人の寄附行為第二条には「本財団は、電気事業の運営に必要な電力技術及び経済に関する研究、調査、試験及びその総合調整を行い、もつて技術水準の同上を計り電気事業一般業務の能率化に寄与することを目的とする。」と記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、原本の存在と成立に争いのない乙第一号証によれば、寄附行為第三条には「本財団は、その目的を達成するため次の事業を行う。

1発送配電に関する電力、土木、火力及び電力応用の試験、研究ならびに調査 2電力技術に関する規格及び仕様書に関する事項 3電力経済に関する研究調査 4電力に関する図書、資料の蒐集及び使用善導 5電力に関する統計の蒐集及び使用善導 6諸計算機交流計算盤を含む)の整備及び使用善導7電力技術経済研究の総合調整 8電力技術及び経済に関する出版物の刊行 9特に指定された事項に関する委託研究 10その他本財団の目的達成に必要な事項」と規定されていることが認められるが、これらの規定をあわせ考えると、寄附行為の面からみた場合の原告法人の目的は特定の電力会社の事業目的に奉仕することにあるのではなく、広く電力事業の運営に必要な電力技術および経済に関する研究調査を行ない、一般的に技術水準の向上を計り、電気事業一般業務の能率化に寄与することにあると認められる。(このことは原告法人が公益法人として設立認可されていることからも当然であろう。)そして、寄附行為第二条が原告法人の行なうべき作用として「電気事業の運営に必要な電力技術及び経済に関する研究、調査、試験」等を行なうことと規定しているのは、前に述べた意味での学術研究のうち原告法人の行なう研究領域を限定し、その研究すべき学術の内容を具体的に表現したものと解するのが相当である。それ故、原告法人の寄附行為の目的条項には学術の研究を行なう趣旨が示されているとみるべきであり、寄附行為の面からみた場合は「学術の研究を目的とする」というを妨げない。(なお、この点に関し、寄附行為第二条が「、、、、もつて技術水準の向上を計り電気事業一般業務の能率化に寄与することを目的とする」と定めていることを捉え、原告の目的は「学術の研究を行うこと」自体にあるのではなく、電力技術水準の向上を計り電気事業一般業務の能率化に寄与することにあるのであつて学術の研究はそのための手段に過ぎないという反論が考えられなくもないが、およそ学術の研究特に応用的研究は産業の振興や社会生活の改善に寄与することを窮局の目的としているといつてよいのであるから、寄附行為に右のような目的を掲げたからといつて原告法人の目的を「学術の研究」にあるとみる支障となるものではない。)もつとも、原告法人の設立許可は前に述べたとおり公益事業委員会によりなされたもので、文部大臣によつてなされたものではない。被告は、この点を捉えて、文部省設置法第五条第一七号の規定によれば、およそ「学術に関する法人」であるならば、その主務官庁は文部省でなければならないところ、「学術の研究を目的とする法人」はつねに「学術に関する法人」に内包される概念であるから、「学術に関する法人」として設立されなかつた原告法人が「学術の研究を目的とする法人」に該当しないことは明らかであると主張するのである。しかしながら、前記のような助成法の趣旨からみれば、同法は「学術の研究を目的とする法人」を「学術に関する法人」として文部大臣の設立認可を受けたもののみに限定したものとは解せられない。このことは同法が文部省専管の法律としてではなく、各省共同所管の法律として制定されたものとみられる(同法は、主務大臣として具体的に「文部大臣」を指定せず、単に抽象的に「主務大臣」と規定しており、文部大臣のほかに通産大臣、農林大臣等各省大臣が署名している。)こと、助成法の附属法規である「民間学術機関の助成に関する施行規則」(昭和二六年文部省令第二〇号)第一条が「民間学術研究機関の助成に関する法律第二条に規定する民間学術研究機関で、その業務について文部大臣の監督に属するもの、、、」と規定し、同法に定める民間学術研究機関で文部大臣の監督に属しないものがあることを当然の前提としているものとみられること(この規則が文部省令であることをもつて助成法の適用対象となる民間学術研究機関が文部省所管のものに限るものと断ずることができないことはいうまでもない。)助成法の提案者も、衆議院文部委員会において、文部省所管の民間学術研究機関のほかにも助成法の適用対象となりうるものがあることを肯定し、助成法の趣旨からいえば文部省以外の省に関連のあるものにも助成すべきであるという意味で法文に所管大臣を「文部大臣」と書かずに「主務大臣」と書きどの省においても法の精神に基づいて助成をやれるように拡充をした旨の説明をしていること(この事実は原本の存在と成立に争いのない乙第六号証により認められる。成立に争いのない甲第二三号証によれば、実際にも文部省所管外の法人で助成法による助成をうけているものが相当数あることが認められる。なお、乙第七号証および文部省大学学術局長の調査嘱託に対する回答の記載中右認定に反するように見える説明ないし回答の部分は採用しない。)からも窺われ、これらをあわせ考えると、助成法にいう「学術の研究を目的とする」法人であるためには文部省所管の「学術に関する法人」である必要はないと解するのが相当である。

(III)そこで、つぎに原告法人の実体について吟味しなければならないが、被告は、原告の実体は九電力会社の企業利益に奉仕する九電力会社の共同研究機関であると主張するので、その理由として被告が述べているところについて検討することからはじめよう。

まず、原告法人の設立趣意書に被告主張のような内容の記載があることは当事者間に争いがない。

しかし、右のような記載は、この種の研究所を設立するには多額の資金を要するので、九電力会社の協力を得てこれを確保するため研究所の設立により九電力会社の要請に応じうる点を強調したものというべく、研究所の設置によつて九電力会社の実際の要請に応ずることは研究所設置の目的が学術の研究にあることと矛盾するものでないから、これのみによつて原告が学術の研究を目的とするものでなく、九電力会社の利益のみに奉仕するその共同研究機関であると速断することはできない。

また、寄附行為第六条、第七条、第二四条、第二五条、第二七条、第三一条が原告主張のような内容のものであること、原告法人設立以降の理事が別紙原告法人理事一覧表のとおりであることは当事者間に争いがないので、これにより、原告法人の理事(定員三〇名)は、九電力会社から各一名ずつ選任され、別に九電力会社の協定により電源開発株式会社ならびに学識経験者より二一名以内の理事が選任されることとされていること、監事も九電力会社の協定により選任されることとされていること、原告法人は、九電力会社の寄附金を基礎として設立され、かつ維持されていること、九電力会社および電源開発株式会社よりの依頼に基づく研究についての費用または報酬について特別の扱いが認められていること、法人が解散した場合には資産処分については九電力会社より一名ずつ選任された理事全部の承認を得なければならないこと、原告法人の設立以降の理事中九電力会社と電源開発株式会社関係者の数が過半数を占めていることがそれぞれ認められ、また証人池田正已の証言(第二回)によつてその成立の認められる甲第二五、二六号証の各一、二および甲第二七号証ならびに同証人の右証言および証人石見隆三の証言(第一、二回)をあわせると、原告法人の所員中九電力会社よりの出向者が相当数(被告主張のように過半数ではなく数分の一程度)あり、これらの者は九電力会社の健康保険組合に加入しており、出向者の退職金の計算については九電力会社での勤務年数と原告会社での勤務年数は通算されることになつていることが認められる。しかも、成立に争いのない乙第一一号証によれば、原告法人の中核をなす技術研究所に対する研究依頼は九電力会社よりのものがほとんどを占め、他からの研究依頼件数は僅少であることが窺われる。したがつて、これらのことだけをみれば、原告は形式的には独立の公益法人であるとはいえ実質的には九電力会社の企業利益に奉仕することを目的とする九電力会社の共同研究機関なのではないかという疑問が生じないではない。しかしながら、右のことがあるからといつて原告を「学術の研究を目的とする」法人ではなく九電力会社の共同研究機関にすぎないといいきることはできない。

純粋の学術研究機関であつてもその設置又は研究の目的と矛盾せずそれに寄与するものであれば、その研究のため特別の援助を受けて委託研究等をなすことは通常見受けられる現象で、このことは決して学術研究機関たることを妨げるものではない。問題は、原告の組織、機構が「学術の研究を目的とするもの」といえるにふさわしいかどうか、およびその運営および活動の実際において九電力会社の求めに応じてそのための研究調査等をすることを本来の建前としているのか、それとも、研究領域は限定されているとはいえ自主的に学術の研究を目的として研究調査等をする建前をとつているかである。

そこで、検討するのに、成立に争いのない甲第三号証、証人内田俊一の証言によつて成立の認められる甲第四号証の一、二、同第五号証の一ないし三、同第六号証、同第七号証、弁論の全趣旨によつて成立の認められる甲第一二ないし第一六号証、弁論の全趣旨により原告主張の写真であることが認められる同第一七号証の一ないし三、証人岡沢哲夫の証言により原告主張の写真であることが認められる同第一八号証の一ないし三、第一九号証の一ないし五、弁論の全趣旨により成立の認められる第二〇、二一号証、成立に争いのない同第二八ないし第四二号証、証人井原芳雄の証言によつて成立の認められる同第四三号証の一、二、同第四六号証の一ないし一五、成立に争いのない乙第一一号証、通商産業省公益事業局長に対する調査嘱託の結果および証人内田俊一、同岡沢哲夫の各証言ならびに弁論の全趣旨をあわせ考えると、次の事実が認められる。すなわち、

原告法人は、東京都北多摩郡狛江町所在の技術研究所において(原告が狛江町に技術研究所を有することは当事者間に争いがない。)別表一の組織、機構のもとに電気の発生、伝送および消費に関する基礎研究から応用研究まで多岐にわたる試験研究を、千葉県東葛飾郡我孫子町所在の農電研究所において別表二の組織、機構のもとに農業等に電気を利用することに関する研究を、東京都千代田区所在の電気事業研究委員会において、別表三の組織、機構のもとに電気事業に関する経済および経営に関する研究、原子力発電の経済に関する研究、東南アジアとの経済協力に関する研究等を、同区所在の産業計画会議においては別表四の組織、機構のもとにエネルギー需給産業の地域的構造と立地条件に関する研究、日本経済の動向に関する研究、欧州経済共同体に関する研究等をそれぞれ行なつている。そして、その研究領域を日本学術会議法第一〇条に定める基準によつて区分すると人文科学部門の第三部に属する経済学、経営学(電気事業研究委員会、産業計画会議における研究)、自然科学部門の第四部理学、第五部工学(技術研究所における研究)、第六部農学(農電研究所における研究)等各般の分野に及んでいる。

研究の基本的計画は企画会の審議を経て理事長が決定し、この基本計画にしたがつて、各電力会社の意向を参酌のうえ、具体的な研究題目の選定を各研究機関の責任者が行ない、その成案を理事会に附議することとされている。そして前記のように外部からの研究依頼の大部分が九電力会社よりのものであり、また研究題目の選定につき九電力会社の意見を聞くこととしているのは、右に述べたような原告法人と九電力会社との密接な関係によることもあるが、しかし、これは、原告法人の研究対象が電力に関する応用研究に関するものである関係上、実際に電力事業を行なつている九電力会社から問題の所在を知り、また実際上の意見を聞くためでもある。そして電力会社の依頼による研究項目といえどもその取捨選択は完全に原告側の判断に任されているのみならず、原告法人においては外部からの依頼による研究のほか原告法人の研究員自ら学界その他外国の動向等を研究し、また過去の研究の成果に基づいて将来を予想して学問的興味から独自の研究項目を見出すことも行なわれており、全体としてはこの後者に重点が置かれている。

この間の事情を技術研究所についてみてみると、研究題目にはいわゆる担当題目(各研究者が学問的興味から題目を選定し、所長の許可を得て研究する題目)といわゆる所命題目(九電力会社等外部よりの依頼に基づき研究所においてこれを研究題目として採り上げることを決定し、各研究者に研究を命じた題目)の二種があり、昭和三五年度上半期に例をとると、右担当題目の数は所命題目の数より少ないが、それぞれの研究に要した人員、作業時間、研究作業費等を比べれば担当題目の研究に要したものの方が所命題目の研究に要したものより相当程度上回つている。

九電力会社にはそれぞれ附置の研究所があり、会社の利益に直接寄与するような問題について研究しているが、原告法人の技術研究所はそれらと比べて一般的学術的な問題を研究対象としており、企業利益を主眼としていない。したがつて、九電力会社および電源開発株式会社等より特定の題目について研究を依頼された場合にも、なるべくその要請に応ずるよう配慮することはあるが、その採否は、前記のように、あくまでも原告法人の技術研究所において自主的に決定する建前をとつている。また、研究態度をみても研究所内部だけで閉鎖的に研究を行なうのではなく、内外の他の研究機関と協力しあつて研究を進めるという態度をとつており、研究成果も性質上公表することが適当でないもの(この種のものは秘扱いとされる。依頼事項は秘扱いとして回答されるものが多いが、公表されるものもある。)は別として、年六回程度刊行され内外の関係研究機関等に配布される「技術研究所所報」「技術研究所報告」や関係学会雑誌等により内外に公表されているほか、研究報告書が大学等関係研究機関に送付されている。

右に述べた研究についての建前は農電研究所や電気事業研究委員会、産業計画会議の場合も同様である。そして、研究成果は、「農電研究所所報」、「資料」等により公表されている。技術研究所所報等の送付または交換先件数は別表八のとおりである。また、従来の実績についてみても、原告の研究成果は九電力会社に限らず、電気事業一般に大いに貢献しており、その基礎的試験、研究の学問的価値は極めて高く評価されており、また応用範囲も電気事業のみならず土木事業、鉱工業、農業、水産業等広く関連産業に及び各方面に幾多の貢献をしてきた。さらに発表された研究論文中には学術的価値が大であるとして各種学会費を受賞しているものが少なくなく、また国内大学生の卒業論文のための学習指導ならびに別表七のとおりコロンボ計画および中近東、中南米援助計画に基づく技術協力研修生の研修にも協力している。

なお、原告は、日本育英会法施行令第一九条第四項第二号(昭和三七年政令第八号による改正前のもの。現在第一九条第三項第七号)の研究所としての文部大臣の指定(昭和三四年文部省告示第八三号により「民間学術研究機関」として指定されている。)、関税定率法施行令第一七条第四号の私立の施設としての大蔵大臣の指定、特許法第三〇条第一項の学術団体としての特許庁長官の指定をそれぞれ受けている。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。(成立に争いのない乙第二六号証(パンフレツト)には、右認定に抵触するような記載があるが、証人井原芳雄の証言によれば、右パンフレツトは原告の労働組合が電気事業の従業員の労働組合たる電労連に加入したいという希望を実現するため特に作成した文書で原告の実体を必ずしも正確に伝えていないことが認められる。また、九電力会社が原告に対し支出する経費を経理上調査研究費として処理しているとしてもこのことは右認定を左右するものではない。)

右認定の事実関係よりすれば、原告法人は、九電力会社と密接な関係があり、また、電力事業が独占的公益事業である関係上、原告の研究成果の主たる受益者が九電力会社であることは否定できないにしても、原告法人がその実体において「学術の研究を目的とするもの」であることを妨げないものというべきである。(助成法の立案者が学術の研究を目的とする公益法人に該当するものとしていたとみられる三菱経済研究所においても、同研究所の役員の大多数が三菱系諸会社の出身者によつて占められている等の事実があることは、前記乙第七号証、甲第二三号証、証人池田正已の証言(第二回)によりその成立を認めうる甲第二四号証、同証人の証言(第一、二回)および文部省大学学術局長の調査嘱託に対する回答によりこれを認めることができる。)

(IV)そうであるとすれば、原告を「学術の研究を目的とするもの」にあたらないとした被告の認定は正当でないことになる。

(二) そして、本件固定資産税および都市計画税各賦課処分の対象となつた不動産が原告法人の目的のため、技術研究所において、直接研究の用に供されているものであることは弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

(三) したがつて、本件固定資産税および都市計画税各賦課処分は違法であり、その取消しを求める原告の請求は理由がある。

二、差押処分取消請求

請求原因(二)の(2)、(五)の(1)の(II)および被告狛江町長が原告に対しその主張のような固定資産税、都市計画税、法人町民税の賦課処分および督促をしたこと、原告が納期におくれ固定資産税および都市計画税を完納したこと、右賦課処分が適法でしかも原告が遅滞の責を負わなければならないとすれば、原告は被告主張のような延滞金等の債務を負うていることは当事者間に争いがない。

(一)  そこで、原告に対し固定資産税、都市計画税、法人町民税を課することができないことは明白で、固定資産税、都市計画税の延滞金、延滞加算金および法人町民税ならびにその督促手数料を徴収することはできないから、これらを徴収するための差押処分は違法であるという原告の主張について検討する。

原告は、「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするもの」であることは右に述べたとおりであるから、地方税法第三四八条第二項、第七〇二条第二項および第二九六条第一項によりそれぞれ固定資産税、都市計画税および法人町民税につき非課税法人である。そして、固定資産税および都市計画税の各賦課処分にかかる不動産が原告法人の目的のため直接研究の用に供されていることは弁論の全趣旨により明らかである。してみれば、被告のなした前記固定資産税、都市計画税および法人町民税の各賦課処分は違法といわなければならない。

しかしながら、右差押処分の基礎となつた租税賦課処分のうち、昭和三三年及び三四年度固定資産税と法人町民税の賦課処分については原告より適法な不服申立手続があつたものとはいえない(原告主張のような書面の提出があつたとしても、これによつて適法な異議申立てがあつたものとは認められない。)から、この賦課処分の違法性については、そのかしが重大かつ明白なかしではなく単なる取り消しうべきかしにとどまる限り原告はもはやこれを争い得ず、しかも租税賦課処分の違法性は滞納処分に承継されないと解すべきところ前記認定の事実関係(固定資産税および都市計画税賦課処分取消請求についての判示Bの(一)の(2))をみれば、原告が「学術研究を目的とするもの」であるかどうかは必ずしも明白であつたとはいい難く、この点で右各賦課処分が無効であるということはできない。したがつて、右各賦課処分が違法であるとしても、右差押基本債権の大部分を占める昭和三三、三四年度の固定資産税延滞金および延滞加算金ならびに法人町民税の部分についてその違法性を争い得ない以上、本件差押処分を当然違法であるということはできない。

(二)  つぎに、原告と被告との間に徴収猶予の合意が成立しているから、原告は遅滞の責を負わない旨の原告の主張について考えるのに、そもそも徴収猶予は地方公共団体の長が地方税法第一五条第一項(昭和三四年法律第一四九号による改正前は第一六条の二第一項)の要件を充たす場合に限りなしうるもので、右要件を充たさないのに納税者との合意に基づき徴収を猶予するようなことは許されないのみならず、原告主張のような合意の成立したことを認めるに足りる証拠がないから、原告の右主張は採用できない。

(三)  また、被告において課税に疑義があつたが、その疑義が行政庁内部において解明されるまでは納税者が納税について疑義をもつのは当然であつて、納税者が納税をしなくても遅滞の責めを負わないとの原告の主張について考えるのに、証人石見隆三の証言および弁論の全趣旨をあわせれば、原告所有の固定資産についての課税について被告狛江町長よりあつせんを依頼された東京都知事代理鈴木副知事より昭和三六年六月二二日付で自治省事務次官あて「東京都北多摩郡狛江町に所在する財団法人電力中央研究所所有の固定資産について、地方税法第三四八条第二項第一二号の解釈および適用につき疑義を生じたので、至急御教示願いたく照会いたします。」との文書が提出され、自治省の見解を徴したことが認められるけれども、租税賦課処分には、それが無効でない限り、いわゆる公定力があり、納税者としては、賦課処分が取り消されるまでは納期に納税すべき義務を負い、納期に納税をしなければ延滞金を、督促状が発せられた場合はその日から一〇日を経過した日の翌日から延滞加算金をそれぞれ納付すべき債務を負うものといわざるを得ず、行政庁において課税に疑義を有し他庁の意見を徴した等の事実があつても、それは行政庁内部の問題であつて、右結論を左右しない。したがつて、原告の右主張も採用できない。

(四)  最後に、原告は、固定資産税および都市計画税は一応これを完納しているので、昭和三五年度分固定資産税および都市計画税各賦課処分について一審判決もいまだなされていない時期に被告が本件差押処分をしたのは信義に反し著しく妥当を欠くと主張するが、差押債権の基礎たる租税賦課処分の取消訴訟の結果をまたないで差押処分をすることが信義に反するとか著しく妥当を欠くとかいうのは独自の見解でとうてい採用できない。

右のとおり、本件差押処分の取消しを求める原告の請求は理由がない。

第二、被告東京都北多摩南部事務所長に対する請求について

請求の原因(一)、(三)および(五)の(2)および原告は昭和三三年一一月二六日付で別紙第二目録記載の土地延三三四・八三坪を売買により取得するとともに、同目録記載のとおり昭和三二年一〇月一五日から昭和三四年一〇月一七日にかけて同目録記載の建物延三五四四・〇一坪を新築および増築により取得したことは当事者間に争いがない。

しかし、地方税法第七三条の四第一項によれば「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするものがその目的のため直接その研究の用に供する不動産」として使用するために不動産を取得した場合、当該不動産の取得に対しては不動産取得税を課することができないとされているところ、原告が「民法第三四条の法人で学術の研究を目的とするもの」にあたることは前に述べたとおりであり、また別紙第二目録記載の土地、家屋は原告法人の目的のため直接技術研究所における研究に供するためのものとして取得されたことは弁論の全趣旨により認めうるところである。

したがつて、東京都北多摩地方事務所長のなした本件不動産取得税賦課処分は違法であり、その取消しを求める原告の請求は理由がある。

第三、むすび

以上の次第で、原告の被告狛江町長に対する各請求は差押処分の取消しを求める請求を除いて理由があるからこれを認容し、差押処分の取消しを求める請求は理由がないからこれを棄却することとし、被告東京都北多摩南部事務所長に対する請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 位野木益雄 高林克已 小笠原昭夫)

(別表および別紙目録省略)

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